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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)862号 判決 1975年1月30日

原告 吉村順一

右訴訟代理人弁護士 前島正好

被告 協同組合中央経済合作社

右代表者代表理事 劉潤波

主文

被告が訴外須川定明に対する東京法務局所属公証人古原勇雄作成昭和四七年第一、五二七号公正証書の執行力ある正本に基づいて、昭和四九年二月一日別紙目録記載の各物件に対してした強制執行を許さない。

訴訟費用は、被告の負担とする。

本件について、当裁判所が昭和四九年二月八日した昭和四九年(モ)第一、六六一号強制執行停止決定を認可する。

この判決は、前項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

主文第一項と同旨。

(被告)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張事実

(請求原因)

一  被告は、訴外須川定明(以下、須川という。)に対する主文第一項記載の債務名義(以下、本件債務名義という。)に基づいて、昭和四九年二月一日別紙目録記載の各物件(以下、本件物件という。)を差押えた。

二  本件物件は、もと須川の所有であったが、原告は昭和四八年一〇月二二日須川に対し、金一、〇〇〇、〇〇〇円を利息年一割八分、弁済期昭和五〇年一〇月二一日の約で貸し付け、同日付譲渡担保設定契約に基づいて、右貸金債務の担保として、須川から同物件の所有権および占有の移転を受けるとともに、引続き同人にこれを使用させているものである。

三  よって、原告は被告に対し、右差押の排除を求める。

(認否)

被告が、本件債務名義に基づいて、昭和四九年二月一日本件物件を差押えたことおよび同物件が須川の所有であったことは認め、その余は否認する。

(抗弁)

仮に原告主張の譲渡担保設定契約が締結されたとしても、右契約は、須川が被告から債権取立てを免れるため、原告と通謀のうえ仮装したものであるから無効である。

(認否)

否認する。

第三証拠≪省略≫

理由

一  被告が本件債務名義に基づいて昭和四九年二月一日本件物件を差押えたことおよび同物件が須川の所有であったことについては、いずれも当事者間に争いがない。

二  ≪証拠省略≫を総合すると、

1  原告は昭和四八年一〇月二二日須川に対し、金一、〇〇〇、〇〇〇円を利息年一割八分、弁済期昭和五〇年一〇月二一日の約で貸し付けたこと、

2  原告と須川は同日、右債権担保のため、本件物件につき譲渡担保設定契約を締結し、原告は須川から本件物件の所有権および占有の移転を受けたこと、

3  原告は、本件物件を引続き須川に使用させることにし、以来須川が本件物件を原告のため占有してこれを使用していること、

が認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

三  被告は、原告と須川との間の右譲渡担保設定契約は通謀虚偽表示であると主張するが、右主張事実は認めることができない。

四  ところで、譲渡担保物件に強制執行手続が開始された場合、譲渡担保権者は、原則として、他の債権者に対し目的物件について優先弁済権を主張しうるに止り、担保物件につき所有権を主張して第三者異議の訴を提起し、その強制執行の全面的排除を求めることができるのは、目的物件の価格が被担保債権額に満たないことが明らかな場合に限られるものと解すべきところ、≪証拠省略≫によれば、執行官による本件物件の評価額は、被担保債権額である元本金一、〇〇〇、〇〇〇円にもはるかに満たないものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

五  以上によれば、原告の本訴請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を、強制執行停止決定の認可およびその仮執行の宣言について同法第五六〇条、第五四九条第四項、第五四八条第一、第二項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 野崎幸雄)

<以下省略>

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